アルミニウム(Al)の化学的性質
基本情報
- 元素記号: Al
- 原子番号: 13
- 電子配置: [Ne]3s²3p¹
- 酸化数: +3(アルミニウムイオン Al³⁺)
- 常温での状態: 銀白色の軽い金属
- 特徴: 典型元素(13族)、両性元素、展性・延性に富む、電気・熱の良導体、密度が小さい(2.7 g/cm³)
アルミニウムの製法
1. ホール・エルー法(融解塩電解法)
アルミニウムの工業的製法。酸化アルミニウムを融解して電気分解する。
原料の準備
- ボーキサイト(Al₂O₃·nH₂O)から酸化アルミニウム(アルミナ Al₂O₃)を精製
- バイヤー法: ボーキサイトを水酸化ナトリウム水溶液で処理
バイヤー法の反応
融解塩電解(ホール・エルー法)
氷晶石(Na₃AlF₆)を加えて融点を下げ(約1000℃)、酸化アルミニウムを電気分解。
- 陰極(炭素): (4) Al³⁺ + 3e⁻ → Al
- 陽極(炭素): (5) 2O²⁻ → O₂ + 4e⁻
- (6) C + O₂ → CO₂ (陽極の炭素が消耗)
- 全体: (7) 2Al₂O₃ + 3C → 4Al + 3CO₂
注意: 大量の電力を消費するため、「電気の缶詰」と呼ばれる
2. アルミニウムのリサイクル
- アルミ缶などを溶解して再利用
- 新地金製造の約3%のエネルギーで済む
- 環境負荷が小さく、経済的
アルミニウムの化学反応
1. 酸素・空気との反応
- 常温の空気中: 表面に緻密な酸化アルミニウム(Al₂O₃)の皮膜を形成
- (8) 4Al + 3O₂ → 2Al₂O₃
- ※ この酸化皮膜が内部を保護(不動態)
- アルミニウム粉末: 空気中で激しく燃焼
2. 水との反応
- 常温の水: 酸化皮膜により反応しない
- 酸化皮膜を除去した場合: 水と反応して水素を発生
- (9) 2Al + 6H₂O → 2Al(OH)₃ + 3H₂↑
3. 酸との反応(両性元素の性質)
アルミニウムは両性元素であり、酸とも塩基とも反応する。
希硫酸・希塩酸との反応
- 希硫酸: (10) 2Al + 3H₂SO₄ → Al₂(SO₄)₃ + 3H₂↑
- 希塩酸: (11) 2Al + 6HCl → 2AlCl₃ + 3H₂↑
硝酸との反応
- 希硝酸: (12) 8Al + 30HNO₃(希) → 8Al(NO₃)₃ + 3NH₄NO₃ + 9H₂O
- 濃硝酸: 不動態を形成して反応しない
4. 塩基との反応(両性元素の性質)
アルミニウムは強塩基とも反応して水素を発生する。
- 水酸化ナトリウム水溶液: (13) 2Al + 2NaOH + 6H₂O → 2Na[Al(OH)₄] + 3H₂↑
- (テトラヒドロキソアルミン酸ナトリウム)
- イオン反応式: (14) 2Al + 2OH⁻ + 6H₂O → 2[Al(OH)₄]⁻ + 3H₂↑
5. ハロゲンとの反応
- 塩素との反応(加熱): (15) 2Al + 3Cl₂ → 2AlCl₃ (塩化アルミニウム、白色)
- 臭素との反応: (16) 2Al + 3Br₂ → 2AlBr₃ (臭化アルミニウム)
6. 硫黄との反応
- 加熱した場合: (17) 2Al + 3S → Al₂S₃ (硫化アルミニウム、黄色)
7. 金属酸化物の還元(テルミット反応)
アルミニウムの強い還元性を利用した反応。
- 酸化鉄(III)の還元: (18) Fe₂O₃ + 2Al → 2Fe + Al₂O₃
- 酸化クロム(III)の還元: (19) Cr₂O₃ + 2Al → 2Cr + Al₂O₃
- 酸化マンガン(IV)の還元: (20) 3MnO₂ + 4Al → 3Mn + 2Al₂O₃
特徴: 強い発熱反応(約3000℃)、鉄道レールの溶接などに利用
アルミニウムの化合物
1. アルミニウムイオン Al³⁺ の性質
- 色: 水溶液は無色
- 酸化数: +3 のみ
- 加水分解: 水溶液は弱酸性(加水分解による)
Al³⁺ の加水分解
- (21) Al³⁺ + 3H₂O ⇌ Al(OH)₃ + 3H⁺
- または: (22) [Al(H₂O)₆]³⁺ ⇌ [Al(H₂O)₅(OH)]²⁺ + H⁺
2. 酸化アルミニウム Al₂O₃ の性質
両性酸化物であり、酸にも塩基にも溶ける。
- 酸との反応: (23) Al₂O₃ + 6HCl → 2AlCl₃ + 3H₂O
- 塩基との反応: (24) Al₂O₃ + 2NaOH → 2NaAlO₂ + H₂O
- イオン反応式: (25) Al₂O₃ + 2OH⁻ → 2AlO₂⁻ + H₂O
色: 白色
用途: 研磨剤、耐火物、吸着剤、触媒担体
天然鉱物: コランダム(不純物により色が変わる)
- ルビー: Cr³⁺を含む(赤色)
- サファイア: Fe²⁺、Ti⁴⁺を含む(青色)
3. 水酸化アルミニウム Al(OH)₃ の性質
両性水酸化物であり、酸にも塩基にも溶ける。
- 生成: (26) Al³⁺ + 3OH⁻ → Al(OH)₃↓ (白色ゼラチン状沈殿)
- 酸との反応: (27) Al(OH)₃ + 3HCl → AlCl₃ + 3H₂O
- 塩基との反応: (28) Al(OH)₃ + NaOH → Na[Al(OH)₄]
- イオン反応式: (29) Al(OH)₃ + OH⁻ → [Al(OH)₄]⁻
- 加熱による脱水: (30) 2Al(OH)₃ → Al₂O₃ + 3H₂O
4. 硫酸アルミニウム Al₂(SO₄)₃ の性質
- 色: 白色結晶
- 溶解性: 水に溶ける
- 加水分解: 水溶液は酸性
- 用途: 浄水剤(凝集剤)、媒染剤
5. ミョウバン(明礬)
複塩の一種で、一般式は M⁺Al³⁺(SO₄)₂·12H₂O
- カリミョウバン: KAl(SO₄)₂·12H₂O(最も一般的)
- アンモニウムミョウバン: NH₄Al(SO₄)₂·12H₂O
性質:
- 無色透明な正八面体結晶
- 水に溶けやすい
- 水溶液は酸性(Al³⁺の加水分解)
- 加熱すると結晶水を失う: (31) KAl(SO₄)₂·12H₂O → KAl(SO₄)₂ + 12H₂O
用途: 媒染剤、防水剤、消火剤、収れん剤
6. 塩化アルミニウム AlCl₃ の性質
- 色: 白色
- 潮解性: 空気中で潮解
- 加水分解: 水と激しく反応
- 加水分解: (32) AlCl₃ + 3H₂O → Al(OH)₃ + 3HCl
用途: フリーデル・クラフツ反応の触媒
7. その他の主なアルミニウム化合物
- 硫化アルミニウム Al₂S₃: 黄色、水と反応して硫化水素を発生
- (33) Al₂S₃ + 6H₂O → 2Al(OH)₃ + 3H₂S↑
- 炭化アルミニウム Al₄C₃: 水と反応してメタンを発生
- (34) Al₄C₃ + 12H₂O → 4Al(OH)₃ + 3CH₄↑
アルミニウムイオンの沈殿反応と検出
1. 水酸化物の沈殿(両性)
- Al³⁺ + 水酸化ナトリウム(少量): (35) Al³⁺ + 3OH⁻ → Al(OH)₃↓ (白色ゼラチン状沈殿)
- 過剰の水酸化ナトリウム: (36) Al(OH)₃ + OH⁻ → [Al(OH)₄]⁻ (沈殿が溶解)
- Al³⁺ + アンモニア水: (37) Al³⁺ + 3NH₃ + 3H₂O → Al(OH)₃↓ + 3NH₄⁺
- ※ 過剰のアンモニア水を加えても溶けない(AlO₂⁻の錯イオンを形成しない)
2. 硫化物
- Al³⁺は硫化水素で沈殿しない(加水分解により水酸化物が沈殿)
3. アルミノンによる検出
アルミニウムイオンの特異的な検出試薬。
- Al³⁺ + アルミノン + アンモニア水 → 赤色のキレート化合物(レーキ)を生成
- この反応はアルミニウムイオンに特有
4. アルミニウムイオンの分離
硫化水素による系統分離では、アルミニウムは第3属に分類される。
- 第3属: Al³⁺, Cr³⁺, Fe³⁺ など
- アンモニア水で水酸化物として沈殿
- Al(OH)₃とCr(OH)₃は水酸化ナトリウムに溶ける(両性)
- Fe(OH)₃は溶けない → 分離可能
その他の重要事項
イオン化傾向
K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Cr > Fe > Ni > Sn > Pb > (H₂) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au
- アルミニウムはイオン化傾向が大きい(マグネシウムの次)
- 希酸と反応して水素を発生
- 濃硝酸では不動態を形成
- 強い還元剤として働く(テルミット反応)
両性元素としてのアルミニウム
アルミニウムは代表的な両性元素。
- 酸との反応: Al³⁺ を生成
- 塩基との反応: [Al(OH)₄]⁻ を生成
- ※ 同様に両性を示す元素: Zn, Sn, Pb, Cr など
不動態の形成
アルミニウムは空気中や濃硝酸中で不動態を形成。
- 表面に緻密な Al₂O₃ の皮膜を形成
- 厚さ約10 nm程度の薄い膜
- 内部の金属を腐食から保護
アルマイト(陽極酸化処理)
人工的に酸化皮膜を厚くする処理。
- アルミニウムを陽極として希硫酸中で電気分解
- 数μm~数十μmの厚い Al₂O₃ 皮膜を形成
- 耐食性、耐摩耗性が向上
- 着色も可能(染料を吸着させる)
アルミニウムの用途
- 軽量材料: 航空機、自動車、建築材料(密度が小さい)
- 導電材料: 電線(銅より軽く安価)
- 包装材料: アルミ箔、アルミ缶
- 合金: ジュラルミン(Al + Cu + Mg + Mn)、超超ジュラルミン
- 還元剤: テルミット反応
- 化学工業: 触媒、脱水剤
- 日用品: 鍋、やかん、1円硬貨
アルミニウムの合金
- ジュラルミン: Al + Cu(4%) + Mg + Mn、軽くて強い
- 超ジュラルミン: Cu含有量が多い(5~6%)
- 超超ジュラルミン: さらにCu含有量が多い、航空機材料
- アルミニウム青銅: Cu + Al、耐食性が高い
アルミニウムの鉱石
- ボーキサイト: Al₂O₃·nH₂O(水酸化アルミニウム鉱物の混合物)
- コランダム: Al₂O₃(酸化アルミニウム)
- 氷晶石: Na₃AlF₆(融解塩電解の融剤)
浄水とアルミニウム
硫酸アルミニウムは浄水剤として使用される。
- 加水分解して水酸化アルミニウムのゲル状沈殿を生成:
- (38) Al₂(SO₄)₃ + 6H₂O → 2Al(OH)₃↓ + 3H₂SO₄
- Al(OH)₃のゲルが水中の微粒子や不純物を吸着して沈降
アルミニウムの特性
- 密度: 2.7 g/cm³(鉄の約1/3)
- 融点: 660℃
- 電気伝導性: 銅の約60%(軽さを考慮すると有利)
- 熱伝導性: 高い(調理器具に適する)
- 展性・延性: 優れている(薄い箔にできる)
- 反射性: 可視光や赤外線をよく反射
環境とアルミニウム
- リサイクル性: 何度でもリサイクル可能
- 省エネルギー: リサイクルは新地金製造の約3%のエネルギー
- 資源循環: アルミ缶のリサイクル率は高い
- 地殻存在度: 地殻中で3番目に多い元素(約8%)
注意すべき反応
- 両性: Al(OH)₃とAl₂O₃は酸にも塩基にも溶ける
- 不動態: 濃硝酸で不動態を形成して反応しない
- 加水分解: Al³⁺水溶液は弱酸性
- アンモニア水: Al(OH)₃は過剰のアンモニア水に溶けない(Znとの違い)
- テルミット反応: 強い発熱反応、高温を発生