銅(Cu)の化学的性質
基本情報
- 元素記号: Cu
- 原子番号: 29
- 電子配置: [Ar]3d¹⁰4s¹
- 酸化数: +1(銅(I)イオン Cu⁺)、+2(銅(II)イオン Cu²⁺)
- 常温での状態: 赤褐色(赤色)の金属
- 特徴: 遷移元素、展性・延性に富む、電気伝導性・熱伝導性が優れている、比較的イオン化傾向が小さい
銅の製法
1. 乾式製錬法(粗銅の製造)
銅鉱石(主に硫化銅)を焙焼・溶融して粗銅を得る方法。
使用する鉱石
- 黄銅鉱(CuFeS₂)
- 輝銅鉱(Cu₂S)
- 斑銅鉱(Cu₅FeS₄)
製錬の流れ(黄銅鉱の場合)
生成物: 粗銅(純度約98~99%)
2. 電解精錬(純銅の製造)
粗銅を陽極、純銅板を陰極とし、硫酸酸性硫酸銅水溶液中で電気分解して純銅を得る。
- 陽極(粗銅): (5) Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
- 陰極(純銅板): (6) Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
注意: 粗銅中の不純物(Ag, Au, Pt など)は陽極下に沈殿(陽極泥)として回収される。
銅の化学反応
1. 酸素・空気との反応
- 常温の乾燥空気中: ほとんど変化しない
- 湿った空気中(長期間): 表面に緑青(塩基性炭酸銅)を生じる
- 主成分: (7) CuCO₃·Cu(OH)₂ または Cu₂(OH)₂CO₃
- 高温で酸素と反応: (8) 2Cu + O₂ → 2CuO (酸化銅(II)、黒色)
2. 水との反応
- 常温・高温ともに水とは反応しない(イオン化傾向が水素より小さい)
3. 酸との反応
銅はイオン化傾向が水素より小さいため、希硫酸や希塩酸とは反応しない。
希硫酸・希塩酸
- 反応しない(イオン化傾向: Cu < H₂)
酸化力のある酸との反応
- 希硝酸: (9) 3Cu + 8HNO₃(希) → 3Cu(NO₃)₂ + 2NO↑ + 4H₂O
- 濃硝酸: (10) Cu + 4HNO₃(濃) → Cu(NO₃)₂ + 2NO₂↑ + 2H₂O
- 熱濃硫酸: (11) Cu + 2H₂SO₄(熱濃) → CuSO₄ + SO₂↑ + 2H₂O
4. ハロゲンとの反応
- 塩素との反応: (12) Cu + Cl₂ → CuCl₂ (塩化銅(II)、褐色)
- ヨウ素との反応: (13) 2Cu + I₂ → 2CuI (ヨウ化銅(I)、白色)
5. 硫黄との反応
- 加熱した銅と硫黄: (14) 2Cu + S → Cu₂S (硫化銅(I)、黒色)
6. 銀イオンとの反応(イオン化傾向)
Cu は Ag⁺ よりイオン化傾向が大きいため、銀イオンを還元する。
- 硝酸銀水溶液に銅を浸す: (15) Cu + 2AgNO₃ → Cu(NO₃)₂ + 2Ag
- イオン反応式: (16) Cu + 2Ag⁺ → Cu²⁺ + 2Ag
銅の化合物
1. 銅(I)イオン Cu⁺ の性質
- 安定性: 水溶液中では不安定(不均化反応を起こす)
- 色: 化合物は多く無色または白色
Cu⁺ の不均化反応
- 水溶液中: (17) 2Cu⁺ → Cu²⁺ + Cu
2. 銅(II)イオン Cu²⁺ の性質
- 色: 水溶液は青色(水和イオン [Cu(H₂O)₄]²⁺ の色)
- 安定性: Cu⁺ より安定
- 酸化性: 弱い酸化性を示す
Cu²⁺ の還元反応
- ヨウ化カリウムとの反応: (18) 2Cu²⁺ + 4I⁻ → 2CuI↓ + I₂
- (白色沈殿のヨウ化銅(I)とヨウ素が生成)
3. 酸化銅の性質
- 酸化銅(I) Cu₂O: 赤色、半導体
- 酸化銅(II) CuO: 黒色
酸化銅(II)の反応
- 酸との反応: (19) CuO + 2HCl → CuCl₂ + H₂O
- 水素による還元: (20) CuO + H₂ → Cu + H₂O
- 炭素による還元: (21) 2CuO + C → 2Cu + CO₂
4. 水酸化銅(II) Cu(OH)₂ の性質
- 生成: (22) Cu²⁺ + 2OH⁻ → Cu(OH)₂↓ (青白色沈殿)
- 加熱による分解: (23) Cu(OH)₂ → CuO + H₂O
5. アンミン錯イオンの形成
銅(II)イオンはアンモニアと錯イオンを形成し、特徴的な深青色を示す。
- 少量のアンモニア水: (24) Cu²⁺ + 2NH₃ + 2H₂O → Cu(OH)₂↓ + 2NH₄⁺
- 過剰のアンモニア水: (25) Cu(OH)₂ + 4NH₃ → [Cu(NH₃)₄]²⁺ + 2OH⁻
- (テトラアンミン銅(II)イオン、深青色)
- または直接: (26) Cu²⁺ + 4NH₃ → [Cu(NH₃)₄]²⁺
6. 主な銅化合物
- 硫酸銅(II) CuSO₄: 白色(無水)、水溶液は青色
- 硫酸銅(II)五水和物 CuSO₄·5H₂O: 青色結晶、風解性
- 塩化銅(II) CuCl₂: 褐色、水溶液は青緑色
- 硝酸銅(II) Cu(NO₃)₂: 青色、潮解性
- 塩化銅(I) CuCl: 白色
- ヨウ化銅(I) CuI: 白色
- 硫化銅(I) Cu₂S: 黒色(輝銅鉱)
- 硫化銅(II) CuS: 黒色
銅イオンの沈殿反応と検出
1. 水酸化物の沈殿
- Cu²⁺ + 水酸化ナトリウム: (27) Cu²⁺ + 2OH⁻ → Cu(OH)₂↓ (青白色沈殿)
- ※ 過剰の水酸化ナトリウムを加えても溶けない(両性でない)
2. 硫化物の沈殿
- Cu²⁺ + 硫化水素(酸性): (28) Cu²⁺ + H₂S → CuS↓ + 2H⁺ (黒色沈殿)
- ※ 硫化銅(II)は酸性でも沈殿する(溶解度積が非常に小さい)
3. 炭酸塩
- Cu²⁺ + 炭酸ナトリウム: (29) 2Cu²⁺ + 2CO₃²⁻ + H₂O → Cu₂(OH)₂CO₃↓ + CO₂
- (塩基性炭酸銅、緑色沈殿)
4. ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムによる検出
- Cu²⁺ + K₄[Fe(CN)₆]: (30) 2Cu²⁺ + K₄[Fe(CN)₆] → Cu₂[Fe(CN)₆]↓ + 4K⁺
- (赤褐色沈殿)
5. アンモニア水による検出
銅(II)イオンの最も特徴的な検出反応
- 過剰のアンモニア水を加える → 深青色の [Cu(NH₃)₄]²⁺ を生成
6. 銅イオンの分離
硫化水素による系統分離では、銅は酸性で沈殿する第2属に分類される。
- 第2属: Cu²⁺, Pb²⁺, Hg²⁺, Cd²⁺, Bi³⁺, As³⁺, Sb³⁺, Sn²⁺ など
- 酸性(HCl酸性)で H₂S を通じると CuS として沈殿
銅の還元性を利用した検出反応
1. フェーリング反応
アルデヒドの検出に用いられる。銅(II)イオンが還元されて酸化銅(I)の赤色沈殿を生じる。
フェーリング液の調製
- A液: 硫酸銅(II)水溶液
- B液: 酒石酸ナトリウムカリウム + 水酸化ナトリウム水溶液
- 使用直前にA液とB液を混合(銅(II)イオンの錯イオンを形成)
反応
- アルデヒド(RCHO)を加えて加熱:
- (31) RCHO + 2Cu²⁺ + 5OH⁻ → RCOO⁻ + Cu₂O↓ + 3H₂O
- (赤色沈殿)
2. ベネジクト反応
フェーリング反応と同様の原理で、還元糖の検出に用いられる。
- ベネジクト液: 硫酸銅(II) + クエン酸ナトリウム + 炭酸ナトリウム
- 還元糖を加えて加熱 → 酸化銅(I)の赤色沈殿を生じる
その他の重要事項
イオン化傾向
K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H₂) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au
- 銅は水素よりイオン化傾向が小さいため、希酸とは反応しない
- 酸化力のある酸(硝酸、熱濃硫酸)とは反応する
銅の用途
- 電線・導線: 優れた電気伝導性
- 合金: 青銅(Cu + Sn)、真鍮(黄銅、Cu + Zn)、白銅(Cu + Ni)、洋銀(Cu + Zn + Ni)
- 硫酸銅: めっき、農薬(ボルドー液)、殺菌剤
- 酸化銅: 触媒、顔料
銅の合金
- 青銅(ブロンズ): Cu + Sn、古代から使用、硬い
- 真鍮(黄銅、ブラス): Cu + Zn、金色、加工しやすい
- 白銅: Cu + Ni、銀白色、硬貨に使用
- 洋銀(洋白): Cu + Zn + Ni、銀白色、装飾品
ダニエル電池
銅と亜鉛を用いた代表的な電池
- 負極(Zn): (32) Zn → Zn²⁺ + 2e⁻
- 正極(Cu): (33) Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
- 全反応: (34) Zn + Cu²⁺ → Zn²⁺ + Cu
緑青(ろくしょう)の生成
銅が湿った空気中で長期間放置されると、表面に緑色の錆(緑青)を生じる。
- 主成分: 塩基性炭酸銅 CuCO₃·Cu(OH)₂ または Cu₂(OH)₂CO₃
- 生成要因: 空気中の酸素、水、二酸化炭素
- 例: 銅像、十円硬貨、銅屋根