金(Au)の化学的性質
基本情報
- 元素記号: Au (ラテン語 Aurum より)
- 原子番号: 79
- 電子配置: [Xe]4f¹⁴5d¹⁰6s¹
- 酸化数: +1(金(I)イオン Au⁺)、+3(金(III)イオン Au³⁺)
- 常温での状態: 黄金色(金色)の金属
- 特徴: 遷移元素、展性・延性に極めて富む(最も延ばせる金属)、化学的に非常に安定、イオン化傾向が最も小さい、貴金属
金の製法
1. 自然金からの採取
金は自然界に単体(自然金)として存在することが多い。
- 砂金: 川や海岸の砂の中に含まれる金粒
- 金鉱石: 石英などの岩石中に含まれる金
- 採取法: 比重選鉱(金の比重が大きいことを利用)
2. 青化法(シアン化法)
金鉱石をシアン化ナトリウム水溶液で処理し、錯イオンとして溶出させて金を得る方法。
3. 水銀アマルガム法
水銀と金が合金(アマルガム)を作る性質を利用する古い方法。
- 金鉱石を水銀と混合 → 金と水銀のアマルガムを形成
- アマルガムを加熱 → 水銀が蒸発して金が残る
- ※ 環境汚染の問題があり、現在はほとんど使われない
4. 電解精錬
粗金を陽極、純金板を陰極として電気分解し、純度を高める。
- 陽極(粗金): (4) Au → Au³⁺ + 3e⁻ または Au → Au⁺ + e⁻
- 陰極(純金板): (5) Au³⁺ + 3e⁻ → Au または Au⁺ + e⁻ → Au
金の化学反応
1. 酸素・空気との反応
- 常温・高温ともに酸素とは反応しない
- 空気中で変色しない(化学的に極めて安定)
2. 水との反応
- 常温・高温ともに水とは反応しない
3. 酸との反応
金はイオン化傾向が最も小さく、単独の酸にはほとんど溶けない。
希硫酸・希塩酸・希硝酸・濃硝酸
- 反応しない(イオン化傾向が最も小さい)
王水による溶解(最重要)
濃塩酸と濃硝酸の混合物(体積比 3:1)である王水には溶ける。
- 王水との反応: (6) Au + 3HCl + HNO₃ → HAuCl₄ + NO↑ + 2H₂O
- (テトラクロロ金(III)酸、黄色)
- イオン反応式: (7) Au + 4Cl⁻ + 3H⁺ + NO₃⁻ → [AuCl₄]⁻ + NO↑ + 2H₂O
王水の作用: 硝酸が酸化剤、塩酸が錯イオン形成剤として働く
熱濃硫酸
- ほとんど反応しない(わずかに溶ける程度)
4. ハロゲンとの反応
- 塩素との反応(加熱): (8) 2Au + 3Cl₂ → 2AuCl₃ (塩化金(III)、赤褐色)
- 臭素との反応(加熱): (9) 2Au + 3Br₂ → 2AuBr₃ (臭化金(III)、暗褐色)
5. シアン化物との反応
シアン化ナトリウム水溶液に空気(酸素)を通じると溶ける。
- (10) 4Au + 8CN⁻ + O₂ + 2H₂O → 4[Au(CN)₂]⁻ + 4OH⁻
- (ジシアノ金(I)酸イオン)
6. アルカリとの反応
- 水酸化ナトリウムなどの強塩基とは反応しない(両性でない)
金の化合物
1. 金(I)イオン Au⁺ の性質
- 安定性: 水溶液中では不安定(不均化反応を起こす)
- 色: 化合物は多く淡色
Au⁺ の不均化反応
- 水溶液中: (11) 3Au⁺ → Au³⁺ + 2Au
2. 金(III)イオン Au³⁺ の性質
- 色: 水溶液は黄色
- 安定性: Au⁺ より安定
- 酸化性: 強い酸化性を示す
3. 塩化金(III) AuCl₃ の性質
- 色: 赤褐色
- 溶解性: 水に溶けて加水分解
- 加水分解: (12) AuCl₃ + H₂O → AuOHCl₂ + HCl
4. テトラクロロ金(III)酸 HAuCl₄ の性質
王水に金を溶かすと生成する。
- 色: 黄色
- 溶解性: 水に易溶
- 用途: 金メッキ、金コロイドの製造
5. 錯イオンの形成
シアノ錯イオン
- 金(I)の錯イオン: (13) Au⁺ + 2CN⁻ → [Au(CN)₂]⁻
- (ジシアノ金(I)酸イオン)
クロロ錯イオン
- 金(III)の錯イオン: (14) Au³⁺ + 4Cl⁻ → [AuCl₄]⁻
- (テトラクロロ金(III)酸イオン、黄色)
6. 金(III)イオンの還元
金(III)イオンは強い酸化性を持ち、容易に還元されて金を析出する。
- 硫酸鉄(II)による還元: (15) Au³⁺ + 3Fe²⁺ → Au + 3Fe³⁺
- シュウ酸による還元: (16) 2Au³⁺ + 3H₂C₂O₄ → 2Au + 6CO₂ + 6H⁺
- 過酸化水素による還元: (17) 2Au³⁺ + 3H₂O₂ → 2Au + 3O₂ + 6H⁺
7. 主な金化合物
- 塩化金(I) AuCl: 黄色
- 塩化金(III) AuCl₃: 赤褐色
- 臭化金(III) AuBr₃: 暗褐色
- 酸化金(III) Au₂O₃: 褐色、不安定
- テトラクロロ金(III)酸 HAuCl₄: 黄色、水に易溶
金の用途と重要事項
イオン化傾向
K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H₂) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au
- 金はイオン化傾向が最も小さい
- 単独の酸にはほとんど溶けない
- 王水(濃塩酸+濃硝酸)にのみ溶ける
- 化学的に極めて安定で、変質・変色しない
金の特性
- 展性・延性: 全金属中で最も延ばせる(1gで約3000mの金線)
- 電気伝導性: 銀・銅に次いで高い
- 熱伝導性: 優れている
- 反射性: 赤外線をよく反射する
- 比重: 19.3(非常に大きい)
- 融点: 1064℃
金の用途
- 装飾品: 宝飾品、アクセサリー
- 通貨・投資: 金貨、金地金(インゴット)
- 電子部品: 接点、配線(腐食しないため信頼性が高い)
- 歯科材料: 金歯、金合金の充填材
- めっき: 金メッキ(装飾、防食)
- ガラス: 着色剤(ルビーガラス)
- 医薬品: 金コロイド(関節リウマチの治療)
- 宇宙開発: 人工衛星の熱遮蔽材
金の純度表示
- 24金(K24): 純金(99.99%以上)
- 22金(K22): 91.7%の金
- 18金(K18): 75%の金(宝飾品に多い)
- 14金(K14): 58.5%の金
- 10金(K10): 41.7%の金
※ 純金は柔らかすぎるため、通常は銀や銅を加えて合金にする
金の合金
- ホワイトゴールド: Au + Ni または Au + Pd、銀白色
- ピンクゴールド: Au + Cu、ピンク色
- グリーンゴールド: Au + Ag、緑がかった色
- 青金: Au + Fe、青色
- 歯科用金合金: Au + Ag + Cu + Pd
金の検出と分析
王水による溶解試験
- 金かどうかを確認する最も確実な方法
- 王水に溶ければ金(またはプラチナ)
塩化スズ(II)による検出
- HAuCl₄ 水溶液に SnCl₂ を加える:
- (18) 2[AuCl₄]⁻ + 3Sn²⁺ → 2Au + 3Sn⁴⁺ + 8Cl⁻
- (紫色の金コロイド「カシウスの紫」を生成)
金コロイド
金の微粒子が水中に分散したもの。
- 色: 赤色~紫色(粒子の大きさによる)
- 製法: 塩化金酸を還元剤で還元
- 用途: ルビーガラスの着色、試薬、医薬品
金の埋蔵と産出
- 主要産出国: 中国、オーストラリア、ロシア、アメリカ、カナダ
- 産出形態: 自然金(単体)、金鉱脈、砂金
- 随伴鉱物: 石英、黄鉄鉱など
- 海水中の金: 海水1トンあたり約0.01mg(採取は困難)
金の歴史的重要性
- 古代から価値ある金属として珍重
- 通貨としての歴史(金本位制)
- 不変性・希少性から「価値の保存手段」
- 錬金術の究極目標(卑金属を金に変える)
王水の性質
濃塩酸と濃硝酸を体積比 3:1 で混合した強力な酸化性混合物
- 王水中での反応: (19) HNO₃ + 3HCl → NOCl + Cl₂ + 2H₂O
- 発生する塩素や塩化ニトロシル(NOCl)が強い酸化力を示す
- 溶かせる金属: Au, Pt
- 名前の由来: 金(王の金属)を溶かすことができる酸
- 注意: 非常に腐食性が強く危険
環境と金
- リサイクル: 電子機器から金を回収(都市鉱山)
- 採掘の環境問題: 水銀汚染、シアン化物の使用
- 持続可能性: リサイクル金の利用推進