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マンガン(Mn)の化学的性質

基本情報

  • 元素記号: Mn
  • 原子番号: 25
  • 電子配置: [Ar]3d⁵4s²
  • 酸化数: +2(Mn²⁺)、+4(MnO₂)、+6(MnO₄²⁻)、+7(MnO₄⁻)など多様
  • 常温での状態: 銀白色の硬い金属
  • 特徴: 遷移元素、酸化数が多様(+2~+7)、鉄に似た性質、常温で脆い

マンガンの製法

1. テルミット法(アルミニウム還元法)

酸化マンガン(IV)をアルミニウムで還元してマンガンを得る方法。

  • 反応式: (1) 3MnO₂ + 4Al → 3Mn + 2Al₂O₃
  • ※ 強い発熱反応(テルミット反応)
  • 2. 炭素還元法

    酸化マンガンを炭素で還元する方法。

  • 反応式: (2) MnO₂ + 2C → Mn + 2CO
  • 3. 電解法

    硫酸マンガン水溶液を電気分解してマンガンを得る方法。

    • 陰極: (3) Mn²⁺ + 2e⁻ → Mn
    • 陽極: (4) 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻

    4. フェロマンガンの製造

    鉄鋼工業で使用される鉄とマンガンの合金。

    • マンガン鉱石と鉄鉱石をコークスで還元
    • 製鋼時の脱酸剤・添加剤として使用

    マンガンの化学反応

    1. 酸素・空気との反応

    • 常温の湿った空気中: 表面に酸化物の皮膜を形成
    • 高温での反応: (5) 3Mn + 2O₂ → Mn₃O₄ (四酸化三マンガン、黒色)
    • または: (6) Mn + O₂ → MnO₂ (酸化マンガン(IV)、黒色)

    2. 水との反応

    • 常温の水: ゆっくり反応
    • 高温の水蒸気: (7) Mn + H₂O → MnO + H₂↑

    3. 酸との反応

    希硫酸・希塩酸との反応

    • 希硫酸: (8) Mn + H₂SO₄ → MnSO₄ + H₂↑
    • 希塩酸: (9) Mn + 2HCl → MnCl₂ + H₂↑

    硝酸との反応

    • 希硝酸: (10) 3Mn + 8HNO₃(希) → 3Mn(NO₃)₂ + 2NO↑ + 4H₂O

    4. ハロゲンとの反応

    • 塩素との反応: (11) Mn + Cl₂ → MnCl₂ (塩化マンガン(II)、淡桃色)

    マンガンの化合物

    1. マンガン(II)イオン Mn²⁺ の性質

    • 色: 水溶液は淡桃色(ほとんど無色に近い)
    • 酸化数: +2(最も安定)
    • 還元性: 酸化されやすい

    Mn²⁺ の酸化反応

    • 硝酸鉛(II)による酸化: (12) Mn²⁺ + PbO₂ + 4H⁺ → MnO₂ + Pb²⁺ + 2H₂O
    • または次亜塩素酸ナトリウムによる酸化(塩基性):
    • (13) Mn²⁺ + ClO⁻ + 2OH⁻ → MnO₂↓ + Cl⁻ + H₂O

    2. 酸化マンガン(IV) MnO₂ の性質

    マンガンの最も重要な化合物。

    • 色: 黒色
    • 天然鉱物: 軟マンガン鉱
    • 酸化剤: 強い酸化作用を示す

    MnO₂ の酸化剤としての反応

    • 濃塩酸との反応(塩素の発生): (14) MnO₂ + 4HCl → MnCl₂ + Cl₂↑ + 2H₂O
    • または: (15) MnO₂ + 2Cl⁻ + 4H⁺ → Mn²⁺ + Cl₂↑ + 2H₂O

    MnO₂ の還元

    • 硫酸酸性での還元: (16) MnO₂ + 4H⁺ + 2e⁻ → Mn²⁺ + 2H₂O

    MnO₂ の用途

    • 乾電池(マンガン乾電池)の減極剤(正極活物質)
    • ガラスの脱色剤
    • 酸化剤(実験室)
    • 触媒(塩素酸カリウムの熱分解など)

    3. マンガン酸イオン MnO₄²⁻ の性質

    • 酸化数: +6
    • 色: 緑色
    • 安定性: 塩基性で安定、酸性で不安定(不均化)

    マンガン酸イオンの不均化

    • 酸性での不均化: (17) 3MnO₄²⁻ + 4H⁺ → 2MnO₄⁻ + MnO₂↓ + 2H₂O

    4. 過マンガン酸イオン MnO₄⁻ の性質(最重要)

    マンガンの化合物で最も重要な酸化剤。

    • 酸化数: +7(マンガンの最高酸化数)
    • 色: 赤紫色(非常に特徴的)
    • 酸化剤: 強力な酸化剤として働く

    過マンガン酸カリウム KMnO₄ の性質

    • 色: 暗紫色結晶
    • 溶解性: 水に溶けて赤紫色の溶液
    • 用途: 酸化剤、殺菌剤、消毒剤

    MnO₄⁻ の酸化剤としての反応

    酸性溶液中(硫酸酸性): Mn²⁺(淡桃色)に還元される

    • 半反応式: (18) MnO₄⁻ + 8H⁺ + 5e⁻ → Mn²⁺ + 4H₂O

    中性・塩基性溶液中: MnO₂(黒色沈殿)に還元される

    • 半反応式: (19) MnO₄⁻ + 2H₂O + 3e⁻ → MnO₂↓ + 4OH⁻

    過マンガン酸カリウムによる酸化反応の例

    • 鉄(II)イオンの酸化(硫酸酸性):
    • (20) MnO₄⁻ + 5Fe²⁺ + 8H⁺ → Mn²⁺ + 5Fe³⁺ + 4H₂O
    • シュウ酸の酸化(硫酸酸性、加熱):
    • (21) 2MnO₄⁻ + 5H₂C₂O₄ + 6H⁺ → 2Mn²⁺ + 10CO₂↑ + 8H₂O
    • 過酸化水素の酸化(硫酸酸性):
    • (22) 2MnO₄⁻ + 5H₂O₂ + 6H⁺ → 2Mn²⁺ + 5O₂↑ + 8H₂O
    • 硫化水素の酸化(硫酸酸性):
    • (23) 2MnO₄⁻ + 5H₂S + 6H⁺ → 2Mn²⁺ + 5S↓ + 8H₂O

    5. その他の主なマンガン化合物

    • 酸化マンガン(II) MnO: 緑色
    • 酸化マンガン(III) Mn₂O₃: 黒色
    • 四酸化三マンガン Mn₃O₄: 黒色、MnO·Mn₂O₃
    • 水酸化マンガン(II) Mn(OH)₂: 白色→空気中で褐色
    • 硫酸マンガン(II) MnSO₄: 淡桃色
    • 塩化マンガン(II) MnCl₂: 淡桃色

    マンガンイオンの沈殿反応と検出

    1. 水酸化物の沈殿

    • Mn²⁺ + 水酸化ナトリウム: (24) Mn²⁺ + 2OH⁻ → Mn(OH)₂↓ (白色沈殿)
    • 空気中での酸化: (25) 4Mn(OH)₂ + O₂ → 4MnO(OH)₂ または 2MnO(OH)₂
    •         (褐色に変化)

    2. 硫化物の沈殿

    • Mn²⁺ + 硫化水素(塩基性): (26) Mn²⁺ + S²⁻ → MnS↓ (淡桃色または肉色沈殿)
    • ※ 硫化マンガンは酸性では沈殿しにくい

    3. 炭酸塩の沈殿

    • Mn²⁺ + 炭酸ナトリウム: (27) Mn²⁺ + CO₃²⁻ → MnCO₃↓ (白色沈殿)

    4. マンガン(II)イオンの検出(酸化による検出)

    Mn²⁺を酸化してMnO₂や過マンガン酸イオンを生成させて検出する。

    二酸化鉛(PbO₂)による酸化

    • 硝酸酸性で PbO₂ を加える:
    • (28) Mn²⁺ + PbO₂ + 4H⁺ → MnO₂↓ + Pb²⁺ + 2H₂O
    • (黒色の MnO₂ 沈殿を生成)

    ビスマス酸ナトリウムによる酸化

    • 硝酸酸性で NaBiO₃ を加える:
    • (29) 2Mn²⁺ + 5BiO₃⁻ + 14H⁺ → 2MnO₄⁻ + 5Bi³⁺ + 7H₂O
    • (赤紫色の MnO₄⁻ を生成、非常に特徴的)

    5. マンガンイオンの分離

    硫化水素による系統分離では、マンガンは塩基性で沈殿する第4属に分類される。

    • 第4属: Mn²⁺, Zn²⁺, Fe²⁺, Co²⁺, Ni²⁺ など
    • 塩基性(NH₄Cl + NH₃水溶液)で H₂S を通じると MnS として沈殿

    その他の重要事項

    イオン化傾向

    K > Ca > Na > Mg > Al > Mn > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H₂) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au

    • マンガンは亜鉛と鉄の間のイオン化傾向
    • 希酸と反応して水素を発生

    マンガンの酸化数の変化

    マンガンは多様な酸化数を取る。

    • +2: Mn²⁺(淡桃色)、最も安定
    • +3: Mn₂O₃、不安定
    • +4: MnO₂(黒色)、酸化剤
    • +6: MnO₄²⁻(緑色)、不安定
    • +7: MnO₄⁻(赤紫色)、強力な酸化剤

    マンガン乾電池

    最も一般的な一次電池。

    • 負極(Zn): (30) Zn → Zn²⁺ + 2e⁻
    • 正極(MnO₂): (31) 2MnO₂ + 2H⁺ + 2e⁻ → Mn₂O₃ + H₂O
    • または: (32) 2MnO₂ + 2NH₄⁺ + 2e⁻ → Mn₂O₃ + 2NH₃ + H₂O

    電解質: 塩化亜鉛、塩化アンモニウム

    マンガンの用途

    • 鉄鋼添加剤: フェロマンガン(製鋼時の脱酸・合金化)
    • マンガン鋼: Fe + Mn(12~14%)、耐摩耗性が高い
    • 乾電池: 酸化マンガン(IV)を減極剤として使用
    • 酸化剤: 過マンガン酸カリウム(化学実験、消毒剤)
    • 触媒: 酸化マンガン(IV)
    • ガラス: 脱色剤、着色剤
    • セラミックス: 顔料

    過マンガン酸カリウムの滴定

    過マンガン酸カリウムは自己指示薬として働く(赤紫色が消えることで終点を判定)。

    • 酸化還元滴定: Fe²⁺、H₂C₂O₄、H₂O₂ などの定量
    • 特徴: 硫酸酸性で使用(塩酸は使えない)
    • 終点判定: 赤紫色が消えなくなった点

    マンガン鉱石

    • 軟マンガン鉱: MnO₂(最も重要)
    • ブラウン鉱: Mn₂O₃·H₂O
    • 菱マンガン鉱: MnCO₃
    • マンガン団塊: 海底に存在するマンガン鉱物

    マンガンの生物学的重要性

    • 光合成の酸素発生反応に必須(マンガンクラスター)
    • 酵素の補因子として機能
    • 骨の形成に関与
    • 必須微量元素の一つ

    注意すべき反応

    • 過マンガン酸カリウムの分解: 濃い溶液を長期保存すると分解
    • MnO₂と濃塩酸: 塩素ガスを発生(実験室でのCl₂の製法)
    • 硫酸酸性の使用: 過マンガン酸カリウムは硫酸酸性で使用(塩酸はCl⁻が酸化される)