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銀(Ag)の化学的性質

基本情報

  • 元素記号: Ag (ラテン語 Argentum より)
  • 原子番号: 47
  • 電子配置: [Kr]4d¹⁰5s¹
  • 酸化数: +1(銀イオン Ag⁺)が主、+2, +3 もあるが稀
  • 常温での状態: 銀白色の金属(金属光沢が最も強い)
  • 特徴: 遷移元素、展性・延性に富む、電気伝導性・熱伝導性が全金属中最大、イオン化傾向が小さい、貴金属

銀の製法

1. 乾式製錬法(銀鉱石から)

銀鉱石(主に硫化銀 Ag₂S)を焙焼して銀を得る方法。

使用する鉱石

  • 輝銀鉱(Ag₂S)
  • 角銀鉱(AgCl)
  • 自然銀(単体の銀)

硫化銀の製錬

  • ① 硫化銀の焙焼: (1) 2Ag₂S + 3O₂ → 2Ag₂O + 2SO₂
  • ② 酸化銀の熱分解: (2) 2Ag₂O → 4Ag + O₂
  • または直接: (3) 2Ag₂S + 3O₂ → 4Ag + 2SO₂
  • 2. 青化法(シアン化法)

    銀鉱石をシアン化ナトリウム水溶液で処理し、錯イオンとして溶出させて銀を得る方法。

  • ① 銀の溶解(錯イオン形成): (4) 4Ag + 8NaCN + O₂ + 2H₂O → 4Na[Ag(CN)₂] + 4NaOH
  • ② 亜鉛による還元: (5) 2[Ag(CN)₂]⁻ + Zn → [Zn(CN)₄]²⁻ + 2Ag
  • 3. 電解精錬(銅の電解精錬の副産物)

    銅の電解精錬の際、陽極泥(スライム)として銀が回収される。

    • 粗銅中に含まれる銀は電解精錬時に陽極下に沈殿
    • この陽極泥から銀や金を回収する

    銀の化学反応

    1. 酸素・空気との反応

    • 常温の乾燥空気中: 変化しない(酸化されにくい)
    • 高温でも酸素とは反応しにくい
    • 硫化水素を含む空気中: 表面に黒色の硫化銀 Ag₂S を生じて変色

    2. 水との反応

    • 常温・高温ともに水とは反応しない(イオン化傾向が水素より小さい)

    3. 酸との反応

    銀はイオン化傾向が水素より小さいため、希硫酸や希塩酸とは反応しない。

    希硫酸・希塩酸

    • 反応しない(イオン化傾向: Ag < H₂)

    酸化力のある酸との反応

    • 希硝酸: (6) 3Ag + 4HNO₃(希) → 3AgNO₃ + NO↑ + 2H₂O
    • 濃硝酸: (7) Ag + 2HNO₃(濃) → AgNO₃ + NO₂↑ + H₂O
    • 熱濃硫酸: (8) 2Ag + 2H₂SO₄(熱濃) → Ag₂SO₄ + SO₂↑ + 2H₂O

    4. ハロゲンとの反応

    • 塩素との反応: (9) 2Ag + Cl₂ → 2AgCl (塩化銀、白色)
    • 臭素との反応: (10) 2Ag + Br₂ → 2AgBr (臭化銀、淡黄色)
    • ヨウ素との反応: (11) 2Ag + I₂ → 2AgI (ヨウ化銀、黄色)

    5. 硫黄・硫化水素との反応

    • 硫化水素との反応: (12) 4Ag + 2H₂S + O₂ → 2Ag₂S + 2H₂O (硫化銀、黒色)
    • ※ 銀製品が空気中で黒変する主な原因

    6. オゾンとの反応

    • 銀とオゾン: (13) 2Ag + O₃ → Ag₂O + O₂ (酸化銀、褐色)
    • ※ オゾンの検出に利用される

    銀の化合物

    1. 銀イオン Ag⁺ の性質

    • 色: 水溶液は無色
    • 酸化数: +1 が最も安定
    • 酸化性: 弱い酸化性を示す
    • 錯イオン形成: アンミン錯イオン、シアノ錯イオンを形成

    2. 酸化銀 Ag₂O の性質

    • 生成: (14) 2Ag⁺ + 2OH⁻ → Ag₂O↓ + H₂O (褐色沈殿)
    • ※ 水酸化銀 AgOH は不安定で、すぐに脱水して酸化銀になる
    • 加熱による分解: (15) 2Ag₂O → 4Ag + O₂
    • 酸との反応: (16) Ag₂O + 2HNO₃ → 2AgNO₃ + H₂O

    3. 硝酸銀 AgNO₃ の性質

    • 色: 無色結晶
    • 溶解性: 水に易溶
    • 光分解: 光により分解されて黒変(銀が析出)
    • 光分解: (17) 2AgNO₃ → 2Ag + 2NO₂ + O₂

    用途: 銀イオンの検出、銀メッキ、写真感光材料

    4. アンミン錯イオンの形成

    • 少量のアンモニア水: (18) 2Ag⁺ + 2NH₃ + 2H₂O → Ag₂O↓ + 2NH₄⁺ (褐色沈殿)
    • 過剰のアンモニア水: (19) Ag₂O + 4NH₃ + H₂O → 2[Ag(NH₃)₂]⁺ + 2OH⁻
    •          (ジアンミン銀(I)イオン、無色)
    • または直接: (20) Ag⁺ + 2NH₃ → [Ag(NH₃)₂]⁺

    5. シアノ錯イオンの形成

    • シアン化物イオンとの反応: (21) Ag⁺ + 2CN⁻ → [Ag(CN)₂]⁻
    •             (ジシアノ銀(I)酸イオン、無色)
    • ※ 青化法での銀の抽出に利用

    6. チオ硫酸錯イオンの形成

    • ハロゲン化銀とチオ硫酸ナトリウム: (22) AgX + 2Na₂S₂O₃ → Na₃[Ag(S₂O₃)₂] + NaX
    • または: (23) AgX + 2S₂O₃²⁻ → [Ag(S₂O₃)₂]³⁻ + X⁻
    • ※ 写真の定着液(ハイポ)として利用

    7. 主な銀化合物

    • 塩化銀 AgCl: 白色、光で分解して黒変
    • 臭化銀 AgBr: 淡黄色、光で分解、写真フィルムの感光剤
    • ヨウ化銀 AgI: 黄色、光で分解
    • 硫化銀 Ag₂S: 黒色、銀の変色の原因
    • 硝酸銀 AgNO₃: 無色結晶、水に易溶
    • 硫酸銀 Ag₂SO₄: 白色、水に難溶

    銀イオンの沈殿反応と検出

    1. 水酸化物(酸化銀)の沈殿

    • Ag⁺ + 水酸化ナトリウム: (24) 2Ag⁺ + 2OH⁻ → Ag₂O↓ + H₂O (褐色沈殿)
    • ※ AgOH は不安定ですぐに Ag₂O に変化

    2. ハロゲン化銀の沈殿(最重要)

    銀イオンの検出に最もよく使われる反応

    • Ag⁺ + 塩化物イオン: (25) Ag⁺ + Cl⁻ → AgCl↓ (白色沈殿)
    • Ag⁺ + 臭化物イオン: (26) Ag⁺ + Br⁻ → AgBr↓ (淡黄色沈殿)
    • Ag⁺ + ヨウ化物イオン: (27) Ag⁺ + I⁻ → AgI↓ (黄色沈殿)

    3. ハロゲン化銀の性質

    • 溶解性: 水に難溶(AgI > AgBr > AgCl の順に溶けにくい)
    • 光分解性: 光により分解して黒変(銀が析出)
    • 光分解: (28) 2AgX → 2Ag + X₂

    4. ハロゲン化銀の溶解

    アンモニア水への溶解

    • AgCl: (29) AgCl + 2NH₃ → [Ag(NH₃)₂]⁺ + Cl⁻ (溶ける)
    • AgBr: 濃アンモニア水に溶ける
    • AgI: アンモニア水に溶けない

    チオ硫酸ナトリウム水溶液への溶解

    • すべてのハロゲン化銀が溶ける: (30) AgX + 2S₂O₃²⁻ → [Ag(S₂O₃)₂]³⁻ + X⁻

    シアン化ナトリウム水溶液への溶解

    • すべてのハロゲン化銀が溶ける: (31) AgX + 2CN⁻ → [Ag(CN)₂]⁻ + X⁻

    5. 硫化物の沈殿

    • Ag⁺ + 硫化水素(酸性): (32) 2Ag⁺ + H₂S → Ag₂S↓ + 2H⁺ (黒色沈殿)
    • ※ 硫化銀は酸性でも沈殿する

    6. クロム酸塩の沈殿

    • Ag⁺ + クロム酸イオン: (33) 2Ag⁺ + CrO₄²⁻ → Ag₂CrO₄↓ (赤褐色沈殿)
    • ※ モール法(塩化物イオンの定量)に利用

    7. 銀イオンの分離

    硫化水素による系統分離では、銀は酸性で沈殿する第2属に分類される。

    • 第1属: Ag⁺, Pb²⁺, Hg₂²⁺ (塩化物として沈殿)
    • 希塩酸で AgCl として沈殿

    銀鏡反応(トレンス試薬による検出)

    アルデヒドの検出に用いられる重要な反応。銀イオンが還元されて金属銀が析出し、容器内壁に銀の鏡面を形成する。

    トレンス試薬の調製

    • ① 硝酸銀水溶液にアンモニア水を加える: (34) Ag⁺ + 2NH₃ → [Ag(NH₃)₂]⁺
    • ② ジアンミン銀(I)イオンを含む水溶液(トレンス試薬)ができる

    銀鏡反応の反応式

    • アルデヒド(RCHO)を加えて温める:
    • (35) RCHO + 2[Ag(NH₃)₂]⁺ + 2OH⁻ → RCOO⁻ + 2Ag↓ + 4NH₃ + H₂O
    • (銀が析出して鏡面を形成)

    注意事項

    • トレンス試薬は放置すると爆発性の物質(雷銀)を生じる可能性があるため、調製後すぐに使用する
    • 使用後は直ちに希硝酸で処理する

    その他の重要事項

    イオン化傾向

    K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H₂) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au

    • 銀は水素よりイオン化傾向が小さいため、希酸とは反応しない
    • 酸化力のある酸(硝酸、熱濃硫酸)とは反応する
    • 貴金属の一つ(酸化されにくく、安定)

    銀の用途

    • 装飾品・食器: 銀製品、銀食器
    • 工業用: 電気接点、電極、はんだ
    • 写真: 感光材料(臭化銀)、定着液(チオ硫酸ナトリウム)
    • 硝酸銀: 銀メッキ、鏡の製造
    • 抗菌作用: 銀イオンの抗菌性を利用した製品
    • 通貨: 銀貨(歴史的)

    銀の合金

    • スターリングシルバー: Ag 92.5% + Cu 7.5%、装飾品や食器
    • コインシルバー: Ag 90% + Cu 10%、硬貨
    • 歯科用アマルガム: Ag + Hg + Sn、歯の充填材

    写真の原理

    ハロゲン化銀(主に臭化銀)の光分解を利用

    • ① 感光: (36) AgBr → Ag + 1/2Br₂ (光により分解)
    • ② 現像: 還元剤により未感光部分以外のAgBrを銀に還元
    • ③ 定着: (37) AgBr + 2S₂O₃²⁻ → [Ag(S₂O₃)₂]³⁻ + Br⁻
    •     (未反応のAgBrを除去)

    銀の変色(硫化)

    銀製品が空気中で黒変する現象

    • 原因: (38) 4Ag + 2H₂S + O₂ → 2Ag₂S + 2H₂O
    • 黒色の硫化銀 Ag₂S が表面に生成

    モール法(塩化物イオンの定量)

    クロム酸カリウムを指示薬として、硝酸銀で塩化物イオンを滴定する方法

    • ① Cl⁻の沈殿: (39) Ag⁺ + Cl⁻ → AgCl↓ (白色)
    • ② 終点の検出: (40) 2Ag⁺ + CrO₄²⁻ → Ag₂CrO₄↓ (赤褐色)