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スズ(Sn)の化学的性質

基本情報

  • 元素記号: Sn (ラテン語 Stannum より)
  • 原子番号: 50
  • 電子配置: [Kr]4d¹⁰5s²5p²
  • 酸化数: +2(スズ(II)イオン Sn²⁺)、+4(スズ(IV)イオン Sn⁴⁺)
  • 常温での状態: 銀白色の柔らかい金属
  • 特徴: 典型元素(14族)、両性元素、展性・延性に富む、低温で同素体変化(スズペスト)

スズの製法

1. 炭素還元法

スズ石(SnO₂)をコークスで還元してスズを得る方法。

  • 反応式: (1) SnO₂ + 2C → Sn + 2CO
  • または: (2) SnO₂ + C → Sn + CO₂
  • 2. 精錬

    粗スズを電解精錬して純度を高める。

    • 陽極(粗スズ): (3) Sn → Sn²⁺ + 2e⁻
    • 陰極(純スズ板): (4) Sn²⁺ + 2e⁻ → Sn

    スズの化学反応

    1. 酸素・空気との反応

    • 常温の空気中: ほとんど変化しない(表面に薄い酸化皮膜)
    • 加熱した場合: 酸化される
    • (5) Sn + O₂ → SnO₂ (酸化スズ(IV)、白色)

    2. 水との反応

    • 常温・高温ともに水とは反応しない

    3. 酸との反応(両性元素の性質)

    スズは両性元素であり、酸とも塩基とも反応する。

    希硫酸・希塩酸との反応

    • 希硫酸: (6) Sn + H₂SO₄ → SnSO₄ + H₂↑
    • 希塩酸: (7) Sn + 2HCl → SnCl₂ + H₂↑
    • ※ 反応は比較的遅い

    濃硫酸・硝酸との反応

    • 濃硫酸(熱): (8) Sn + 4H₂SO₄(熱濃) → Sn(SO₄)₂ + 2SO₂↑ + 4H₂O
    • 濃硝酸: (9) Sn + 4HNO₃(濃) → SnO₂↓ + 4NO₂↑ + 2H₂O
    •     (メタスズ酸、白色沈殿)

    4. 塩基との反応(両性元素の性質)

    スズは強塩基とも反応して水素を発生する。

    • 水酸化ナトリウム水溶液: (10) Sn + 2NaOH + 2H₂O → Na₂[Sn(OH)₄] + H₂↑
    •            (テトラヒドロキソスズ(II)酸ナトリウム)
    • イオン反応式: (11) Sn + 2OH⁻ + 2H₂O → [Sn(OH)₄]²⁻ + H₂↑

    5. ハロゲンとの反応

    • 塩素(少量): (12) Sn + Cl₂ → SnCl₂ (塩化スズ(II)、白色)
    • 塩素(過剰): (13) Sn + 2Cl₂ → SnCl₄ (塩化スズ(IV)、無色液体)

    6. スズペスト(灰色スズへの転移)

    低温(約13℃以下)で起こる同素体変化。

    • 白色スズ(β-Sn): 常温で安定、金属光沢、展性・延性あり
    • 灰色スズ(α-Sn): 低温で安定、粉末状、非金属性
    • 白色スズ → 灰色スズ(約13℃以下で徐々に転移)
    • 体積が膨張し、粉々に崩壊(スズペスト)

    スズの化合物

    1. スズ(II)イオン Sn²⁺ の性質

    • 色: 水溶液は無色
    • 安定性: 比較的安定だが、酸化されやすい
    • 還元性: 還元剤として働く

    Sn²⁺ の還元剤としての反応

    • 鉄(III)イオンの還元: (14) Sn²⁺ + 2Fe³⁺ → Sn⁴⁺ + 2Fe²⁺
    • 水銀(II)イオンの還元: (15) Sn²⁺ + 2Hg²⁺ → Sn⁴⁺ + 2Hg
    •            または: (16) Sn²⁺ + Hg²⁺ → Sn⁴⁺ + Hg₂²⁺
    • 金(III)イオンの還元(カシウスの紫): (17) 3Sn²⁺ + 2Au³⁺ → 3Sn⁴⁺ + 2Au
    •                (微細な金コロイドが生成、紫色)

    Sn²⁺ の酸化反応

    • 空気酸化: (18) 2Sn²⁺ + O₂ + 4H⁺ → 2Sn⁴⁺ + 2H₂O

    2. スズ(IV)イオン Sn⁴⁺ の性質

    • 色: 水溶液は無色
    • 安定性: Sn²⁺ より安定
    • 加水分解: 強く加水分解する

    3. 酸化スズ(II) SnO の性質

    • 色: 黒色
    • 両性酸化物: 酸にも塩基にも溶ける
    • 酸との反応: (19) SnO + 2HCl → SnCl₂ + H₂O
    • 塩基との反応: (20) SnO + 2NaOH → Na₂SnO₂ + H₂O

    4. 酸化スズ(IV) SnO₂ の性質

    • 色: 白色
    • 天然鉱物: スズ石(カシテライト)
    • 両性酸化物: 酸にも塩基にも溶ける
    • 酸との反応(困難): 濃硫酸などと加熱
    • 塩基との反応: (21) SnO₂ + 2NaOH → Na₂SnO₃ + H₂O
    • または融解: (22) SnO₂ + 2NaOH → Na₂[Sn(OH)₄]

    5. 水酸化スズ(II) Sn(OH)₂ の性質

    両性水酸化物であり、酸にも塩基にも溶ける。

    • 生成: (23) Sn²⁺ + 2OH⁻ → Sn(OH)₂↓ (白色沈殿)
    • 酸との反応: (24) Sn(OH)₂ + 2HCl → SnCl₂ + 2H₂O
    • 塩基との反応: (25) Sn(OH)₂ + 2NaOH → Na₂[Sn(OH)₄]
    • イオン反応式: (26) Sn(OH)₂ + 2OH⁻ → [Sn(OH)₄]²⁻

    6. 水酸化スズ(IV) Sn(OH)₄ の性質

    両性水酸化物であり、酸にも塩基にも溶ける。

    • 生成: (27) Sn⁴⁺ + 4OH⁻ → Sn(OH)₄↓ (白色沈殿)
    • または濃硝酸との反応: SnO₂·xH₂O (メタスズ酸)
    • 塩基との反応: (28) Sn(OH)₄ + 2OH⁻ → [Sn(OH)₆]²⁻

    7. 塩化スズ(II) SnCl₂ の性質

    • 色: 白色結晶
    • 溶解性: 水に溶ける
    • 還元剤: 強い還元性を示す
    • 用途: 還元剤、媒染剤

    加水分解

    • 水に溶かすと加水分解: (29) SnCl₂ + H₂O → Sn(OH)Cl↓ + HCl
    •            (塩基性塩化スズ(II)、白色沈殿)
    • ※ 塩酸を加えると沈殿が溶解(加水分解を抑制)

    8. 塩化スズ(IV) SnCl₄ の性質

    • 色: 無色の発煙性液体
    • 沸点: 114℃
    • 加水分解: 水と激しく反応
    • (30) SnCl₄ + 4H₂O → Sn(OH)₄ + 4HCl

    9. 硫化スズ(II) SnS の性質

    • 色: 褐色
    • 溶解性: 水に不溶
    • 生成: (31) Sn²⁺ + H₂S → SnS↓ + 2H⁺
    • 硫化アンモニウムに溶解: (32) SnS + S²⁻ → SnS₂²⁻

    10. 硫化スズ(IV) SnS₂ の性質

    • 色: 金色(モザイク金)
    • 溶解性: 水に不溶
    • 生成: (33) Sn⁴⁺ + 2H₂S → SnS₂↓ + 4H⁺
    • 硫化アンモニウムに溶解: (34) SnS₂ + S²⁻ → SnS₃²⁻

    スズイオンの沈殿反応と検出

    1. 水酸化物の沈殿(両性)

    • Sn²⁺ + 水酸化ナトリウム(少量): (35) Sn²⁺ + 2OH⁻ → Sn(OH)₂↓ (白色沈殿)
    • 過剰の水酸化ナトリウム: (36) Sn(OH)₂ + 2OH⁻ → [Sn(OH)₄]²⁻ (沈殿が溶解)
    • Sn⁴⁺ + 水酸化ナトリウム(少量): (37) Sn⁴⁺ + 4OH⁻ → Sn(OH)₄↓ (白色沈殿)
    • 過剰の水酸化ナトリウム: (38) Sn(OH)₄ + 2OH⁻ → [Sn(OH)₆]²⁻ (沈殿が溶解)

    2. 硫化物の沈殿

    • Sn²⁺ + 硫化水素(酸性): (39) Sn²⁺ + H₂S → SnS↓ + 2H⁺ (褐色沈殿)
    • Sn⁴⁺ + 硫化水素(酸性): (40) Sn⁴⁺ + 2H₂S → SnS₂↓ + 4H⁺ (金色沈殿)
    • ※ 硫化物は硫化アンモニウム(塩基性)に溶解

    3. 金属スズによる還元(検出反応)

    • 塩化水銀(II)と金属スズ: (41) Sn + HgCl₂ → SnCl₂ + Hg
    •            (灰色の水銀が析出)

    4. スズイオンの分離

    硫化水素による系統分離では、スズは酸性で沈殿する第2属に分類される。

    • 第2A族: Sn²⁺, Sn⁴⁺ (硫化物が硫化アンモニウムに溶ける)
    • 酸性(HCl酸性)で H₂S → SnS または SnS₂ として沈殿
    • 硫化アンモニウムに溶解 → 第2Aと第2Bを分離

    その他の重要事項

    イオン化傾向

    K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Cr > Fe > Ni > Sn > Pb > (H₂) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au

    • スズはイオン化傾向が水素よりやや大きい
    • 希酸と反応して水素を発生(反応は遅い)

    両性元素としてのスズ

    スズは両性元素であり、酸とも強塩基とも反応する。

    • 酸との反応: Sn²⁺ を生成
    • 塩基との反応: [Sn(OH)₄]²⁻ または [Sn(OH)₆]²⁻ を生成
    • ※ 同様に両性を示す元素: Al, Zn, Pb, Cr など

    スズの用途

    • ブリキ: 鉄板にスズめっき、食品缶
    • はんだ: Sn + Pb、電子部品の接合
    • 青銅(ブロンズ): Cu + Sn、古代から使用
    • 白銅: Cu + Ni(スズを含む場合もある)
    • 活字合金: Pb + Sn + Sb
    • スズ箔: 包装材料
    • 化合物: 塩化スズ(II)は還元剤、媒染剤

    ブリキとトタンの比較

    • ブリキ: 鉄板にスズめっき
    •  特徴: 傷がつくと鉄が先に腐食(Sn < Fe のイオン化傾向)
    •  用途: 食品缶(スズは無毒)
    • トタン: 鉄板に亜鉛めっき
    •  特徴: 傷がついても亜鉛が先に腐食して鉄を保護(Zn > Fe)
    •  用途: 屋根材、バケツ

    スズの合金

    • 青銅: Cu + Sn(10~15%)、硬く強い、古代文明
    • はんだ: Sn + Pb、融点が低い(約200℃)
    • 無鉛はんだ: Sn + Ag + Cu、環境配慮
    • ピューター: Sn(90%)+ Sb + Cu、食器
    • ベアリング合金: Sn + Sb + Cu、軸受け

    スズの鉱石

    • スズ石(カシテライト): SnO₂(最も重要)
    • 主な産地: 中国、インドネシア、ミャンマー

    スズペストと歴史

    低温でのスズの崩壊現象。

    • 約13℃以下で白色スズ(金属)が灰色スズ(非金属)に転移
    • 体積膨張により粉々に崩壊
    • 歴史的事例: ナポレオンのロシア遠征で軍服のスズボタンが崩壊したという説
    • 現代では合金化により防止

    スズの酸化数

    • +2: Sn²⁺(還元性)、SnO、SnCl₂、SnS
    • +4: Sn⁴⁺(安定)、SnO₂、SnCl₄、SnS₂
    • Sn²⁺は還元剤として働き、容易にSn⁴⁺に酸化される

    カシウスの紫

    塩化スズ(II)によるテトラクロロ金(III)酸の還元。

    • (42) 3Sn²⁺ + 2[AuCl₄]⁻ → 3Sn⁴⁺ + 2Au + 8Cl⁻
    • 微細な金コロイドが生成し、紫色を呈する
    • 金の検出やルビーガラスの着色に利用

    環境とスズ

    • 無毒性: スズは比較的無毒(食品缶に使用)
    • 有機スズ化合物: 毒性あり、船底塗料などで使用されたが規制
    • リサイクル: ブリキ缶のリサイクル
    • 鉛フリーはんだ: 環境配慮で鉛を含まないはんだへ移行

    注意すべき反応

    • 両性: Sn(OH)₂、Sn(OH)₄、SnO、SnO₂は酸にも塩基にも溶ける
    • 還元性: Sn²⁺は還元剤、Sn⁴⁺に酸化されやすい
    • 硫化物: SnS(褐色)、SnS₂(金色、モザイク金)
    • 加水分解: SnCl₂は水で加水分解して白濁(塩酸で抑制)
    • スズペスト: 低温で白色スズが灰色スズに転移

    スズの歴史

    • 紀元前3000年頃から青銅器として使用(青銅器時代)
    • 古代文明で武器、道具、装飾品に利用
    • 中世ヨーロッパでピューター食器が普及
    • 産業革命後、ブリキ缶の発明
    • 現代ではエレクトロニクス産業で重要