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カルボン酸

1. カルボン酸とは

カルボン酸は、カルボキシ基(-COOH)を持つ有機化合物の総称である。カルボキシ基はカルボニル基(C=O)とヒドロキシ基(-OH)が結合した構造を持つ。

  • 官能基: カルボキシ基 (-COOH)
  • 一般式: R-COOH (Rはアルキル基またはアリール基、Hの場合はギ酸)
  • 特徴: 酸性を示す。水素結合により会合し、二量体を形成しやすい。
  • 命名法: 対応するアルカンの語尾「e」を「oic acid」に変える。日本語では「-酸」。
    例:H-COOH → メタン酸(ギ酸)
    CH₃-COOH → エタン酸(酢酸)
    C₆H₅-COOH → 安息香酸

2. 構造と結合

  • カルボキシ基の構造: 炭素はsp²混成軌道をとり、平面構造。
  • 共鳴: カルボキシ基は共鳴安定化されており、O-H結合の分極が大きくなっている。
  • 二量体形成: カルボン酸は分子間で水素結合による環状二量体を形成しやすい。このため、沸点が高くなる。
  • 結合距離: C=O結合は約1.20Å、C-OH結合は約1.36Åで、通常のC-O結合より短い(共鳴のため)。

3. 物理的性質

3.1 沸点

  • カルボン酸は分子間で強い水素結合(二量体形成)をするため、同じ分子量のアルコールよりも沸点が高い。
  • 例: 酢酸(CH₃COOH) 沸点118℃、エタノール(C₂H₅OH) 沸点78℃、プロパン(C₃H₈) 沸点-42℃
  • 低級カルボン酸(ギ酸、酢酸)は水素結合のため比較的高い沸点を持つ。

3.2 溶解度

  • 低級カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸)は水と任意の割合で混ざる。
  • これは、カルボキシ基が水と水素結合を形成できるため。
  • 炭素数が増えると疎水性部分が大きくなり、水への溶解度は低下する。炭素数5以上のカルボン酸は油状または固体で水に溶けにくい。

3.3 臭い

  • 低級カルボン酸(C1〜C4)は強い刺激臭を持つ(ギ酸: 刺激臭、酢酸: 酸っぱい臭い、酪酸: 不快な腐敗臭)。
  • 中級カルボン酸(C6〜C10)は不快な臭い(ヤギ臭など)を持つ。
  • 高級カルボン酸(脂肪酸)はほとんど無臭。

3.4 融点

  • 飽和脂肪酸は炭素数が偶数のものと奇数のもので融点が異なる(偶数炭素の方が高い)。
  • 不飽和脂肪酸はシス型だと融点が低い(液体)。

4. 酸性度

4.1 酸性の理由

  • カルボン酸が酸性を示すのは、カルボキシ基の共鳴安定化による。
  • カルボン酸が解離すると、カルボン酸イオン(R-COO⁻)は2つの酸素原子に負電荷が非局在化し、安定化される。

4.2 pKa値

  • 一般的なカルボン酸のpKa: 約4〜5(酢酸のpKa = 4.76)
  • ギ酸(HCOOH): pKa = (1) 3.75 (酢酸より強い)
  • 安息香酸(C₆H₅COOH): pKa = (2) 4.20
  • シュウ酸(HOOC-COOH): pKa₁ = 1.23, pKa₂ = 4.19 (二塩基酸)

4.3 酸性度に影響する要因

  • 電子求引性基: ハロゲンなど電子求引性基がα位に付くと、酸性度が強くなる。
    例: クロロ酢酸(pKa=2.86) > 酢酸(pKa=4.76)
  • 電子供与性基: アルキル基など電子供与性基があると、酸性度が弱くなる。
    例: 酢酸 > プロピオン酸
  • 置換基の位置: 電子求引性基がカルボキシ基に近いほど効果が大きい。
  • 芳香環: 安息香酸は安息香酸イオンが共鳴安定化されるが、脂肪族カルボン酸と同程度の酸性度。

5. カルボン酸の製法

5.1 第一級アルコールの酸化

  • 第一級アルコールを酸化すると、アルデヒドを経てカルボン酸が得られる。
  • 反応式: (3) R-CH₂OH + 2[O] → R-COOH + H₂O
  • 酸化剤: 二クロム酸カリウム(K₂Cr₂O₇/H⁺)、過マンガン酸カリウム(KMnO₄)など
  • 例(エタノールの酸化): (4) CH₃CH₂OH + 2[O] → CH₃COOH + H₂O

5.2 アルデヒドの酸化

  • アルデヒドは容易に酸化されてカルボン酸になる。
  • 反応式: (5) R-CHO + [O] → R-COOH
  • 銀鏡反応やフェーリング反応はこの酸化反応を利用している。

5.3 アルキルの酸化

  • アルキルベンゼン(トルエンなど)を酸化すると、安息香酸が得られる。
  • 反応式: (6) C₆H₅-CH₃ + 3[O] → C₆H₅-COOH + H₂O
  • 酸化剤: 過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウムなど

5.4 グリニャール反応と二酸化炭素

  • グリニャール試薬(RMgBr)に二酸化炭素(CO₂)を反応させ、その後加水分解するとカルボン酸が得られる。
  • 反応式: (7) RMgBr + CO₂ → R-COOMgBr → (H⁺/H₂O) R-COOH
  • この方法で炭素鎖を1つ伸ばしたカルボン酸が合成できる。

5.5 加水分解

  • エステルの加水分解: エステルを酸または塩基で加水分解するとカルボン酸が得られる。
  • 反応式: (8) R-COOR' + H₂O → R-COOH + R'OH
  • ニトリルの加水分解: ニトリルを加水分解してもカルボン酸が得られる。
  • (9) R-CN + 2H₂O → R-COOH + NH₃

5.6 特別な製法

  • ギ酸: 一酸化炭素と水酸化ナトリウムから合成(工業的)。
  • (10) CO + NaOH → HCOONa → (H⁺) HCOOH
  • 酢酸: メタノールと一酸化炭素から合成(メタノールのカルボニル化、工業的)。
  • (11) CH₃OH + CO → CH₃COOH

6. カルボン酸の化学反応

6.1 酸としての反応(塩の生成)

  • カルボン酸は塩基と反応してカルボン酸塩を生成する。
  • 水酸化ナトリウムとの反応: (12) R-COOH + NaOH → R-COONa + H₂O
  • 炭酸水素ナトリウムとの反応: (13) R-COOH + NaHCO₃ → R-COONa + CO₂↑ + H₂O
  • この反応は、フェノール(炭酸水素ナトリウムと反応しない)との区別に用いられる。
  • 炭酸ナトリウムとの反応: (14) 2R-COOH + Na₂CO₃ → 2R-COONa + CO₂↑ + H₂O

6.2 エステル化反応(フィッシャーエステル化)

  • カルボン酸は酸触媒存在下でアルコールと反応し、エステルを生成する。
  • 反応式: (15) R-COOH + R'OH ⇄ R-COOR' + H₂O
  • 触媒: 濃硫酸、塩化水素など
  • 可逆反応のため、エステルを高収率で得るには、水を除去するか、アルコールを大過剰用いる。
  • 例(酢酸エチル): (16) CH₃COOH + C₂H₅OH ⇄ CH₃COOC₂H₅ + H₂O

6.3 塩化チオニルなどによる酸塩化物の生成

  • カルボン酸を塩化チオニル(SOCl₂)や三塩化リン(PCl₃)などと反応させると、酸塩化物(R-COCl)が得られる。
  • 反応式: (17) R-COOH + SOCl₂ → R-COCl + SO₂↑ + HCl↑
  • 酸塩化物は反応性が高く、エステル化やアミド化などに用いられる。

6.4 無水カルボン酸の生成

  • カルボン酸を脱水剤(無水酢酸など)と反応させるか、2分子のカルボン酸から水を奪うと、酸無水物が生成する。
  • 反応式: (18) 2R-COOH → (R-CO)₂O + H₂O
  • 無水酢酸は工業的に重要な酸無水物。

6.5 アミドの生成

  • カルボン酸にアンモニアを反応させると、一旦アンモニウム塩が生成し、加熱すると脱水してアミドになる。
  • 反応式: (19) R-COOH + NH₃ → R-COONH₄ → (加熱) R-CONH₂ + H₂O
  • 酸塩化物や無水物からアミドを作る方が一般的。

6.6 還元反応

  • カルボン酸を強力な還元剤(水素化アルミニウムリチウム LiAlH₄)で還元すると、第一級アルコールが得られる。
  • 反応式: (20) R-COOH + 4[H] → R-CH₂OH + H₂O
  • 水素化ホウ素ナトリウム(NaBH₄)では還元されにくい。

6.7 ハロゲン化(ヘル・ホールド法)

  • 赤リン存在下でカルボン酸に臭素を反応させると、α位がハロゲン化される(ヘル・ホールド法)。
  • 反応式: (21) R-CH₂-COOH + Br₂ → R-CH(Br)-COOH + HBr

6.8 脱炭酸反応

  • カルボン酸を加熱すると、二酸化炭素が脱離することがある(脱炭酸)。
  • 特にβ-ケト酸やマロン酸誘導体は容易に脱炭酸する。
  • アセト酢酸の場合: (22) CH₃-CO-CH₂-COOH → CH₃-CO-CH₃ + CO₂↑

6.9 二量化(還元的二量化)

  • カルボン酸の電解還元(コルベ電解)により、二量体(炭化水素)が得られる。

7. 重要なカルボン酸とその性質

7.1 飽和モノカルボン酸

ギ酸 (HCOOH, メタン酸)

  • 性状: 無色の液体、刺激臭、沸点101℃。水と任意に混ざる。
  • 特徴: 最も簡単なカルボン酸。アルデヒド基も持つ構造のため、還元性を示す(銀鏡反応陽性)。
  • 反応: 濃硫酸で脱水され、一酸化炭素を発生: HCOOH → CO + H₂O
  • 用途: 染色、皮革工業、殺菌剤。

酢酸 (CH₃COOH, エタン酸)

  • 性状: 無色の液体、刺激臭(酢の香り)、沸点118℃。水と任意に混ざる。
  • 特徴: 純粋な酢酸は低温(16.7℃以下)で凍結し、氷のような結晶になる(氷酢酸)。
  • 用途: 食酢(3-5%水溶液)、化学工業原料(酢酸ビニル、酢酸エチル、無水酢酸など)。

プロピオン酸 (C₂H₅COOH, プロパン酸)

  • 性状: 無色の液体、刺激臭、沸点141℃。
  • 用途: 防腐剤、香料、医薬品原料。

酪酸 (C₃H₇COOH, ブタン酸)

  • 性状: 無色の液体、不快な腐敗臭(バターの腐敗臭)、沸点164℃。
  • 特徴: バターに含まれる(名前の由来)。
  • 用途: 香料(エステルとして)、医薬品。

高級脂肪酸 (C12〜C20)

  • パルミチン酸 (C₁₅H₃₁COOH): 炭素数16の飽和脂肪酸。パーム油などに含まれる。融点63℃。
  • ステアリン酸 (C₁₇H₃₅COOH): 炭素数18の飽和脂肪酸。動物性脂肪に含まれる。融点70℃。
  • アラキジン酸 (C₁₉H₃₉COOH): 炭素数20の飽和脂肪酸。

7.2 不飽和カルボン酸

アクリル酸 (CH₂=CH-COOH, プロペン酸)

  • 性状: 無色の液体、刺激臭、沸点141℃。
  • 用途: アクリル樹脂(ポリアクリル酸、アクリル酸エステル)の原料。

メタクリル酸 (CH₂=C(CH₃)-COOH)

  • 用途: メタクリル酸メチル(アクリル樹脂、有機ガラス)の原料。

オレイン酸 (C₁₇H₃₃COOH, シス-9-オクタデセン酸)

  • 性状: 無色の液体、融点13℃。不飽和脂肪酸の代表。
  • 特徴: 二重結合を1つ持つ(シス型)。オリーブ油などに含まれる。

リノール酸 (C₁₇H₃₁COOH)

  • 特徴: 二重結合を2つ持つ(シス,シス-9,12-オクタデカジエン酸)。必須脂肪酸。

リノレン酸 (C₁₇H₂₉COOH)

  • 特徴: 二重結合を3つ持つ。α-リノレン酸はオメガ3脂肪酸の一種。

7.3 二塩基酸(ジカルボン酸)

シュウ酸 (HOOC-COOH, エタン二酸)

  • 性状: 無色結晶、二水和物が一般的。有毒。
  • 特徴: 最も簡単なジカルボン酸。還元性があり、過マンガン酸カリウムを脱色する。
  • 用途: さび取り、漂白剤、分析試薬。

マロン酸 (HOOC-CH₂-COOH, プロパン二酸)

  • 特徴: 加熱すると容易に脱炭酸して酢酸になる。

コハク酸 (HOOC-(CH₂)₂-COOH, ブタン二酸)

  • 性状: 無色結晶、融点185℃。
  • 用途: 医薬品、食品添加物。

アジピン酸 (HOOC-(CH₂)₄-COOH, ヘキサン二酸)

  • 用途: ナイロン(6,6-ナイロン)の原料。

フタル酸 (o-C₆H₄(COOH)₂)

  • 性状: 芳香族ジカルボン酸(オルト体)。
  • 用途: 可塑剤(フタル酸エステル)の原料。

7.4 ヒドロキシ酸

乳酸 (CH₃-CH(OH)-COOH, 2-ヒドロキシプロパン酸)

  • 性状: 無色結晶またはシロップ状液体。
  • 特徴: 筋肉疲労の原因物質。発酵乳製品に含まれる。
  • 用途: 食品添加物、生分解性プラスチック(ポリ乳酸)の原料。

リンゴ酸 (HOOC-CH(OH)-CH₂-COOH)

  • 特徴: 果物(リンゴなど)に含まれる。

酒石酸 (HOOC-CH(OH)-CH(OH)-COOH)

  • 特徴: ブドウに含まれる。ワインの沈殿物(酒石)の主成分。
  • 用途: フェーリング液の成分、ベーキングパウダー。

クエン酸 (HOOC-CH₂-C(OH)(COOH)-CH₂-COOH)

  • 性状: 無色結晶、爽やかな酸味。
  • 特徴: 柑橘類に含まれる。三塩基酸。
  • 用途: 食品添加物(酸味料)、清涼飲料水、金属イオンのキレート剤。

7.5 芳香族カルボン酸

安息香酸 (C₆H₅-COOH, ベンゼンカルボン酸)

  • 性状: 白色結晶、昇華性、融点122℃。水に溶けにくい。
  • 用途: 防腐剤(安息香酸ナトリウムとして)、医薬品、染料原料。

サリチル酸 (o-HO-C₆H₄-COOH, 2-ヒドロキシ安息香酸)

  • 性状: 白色結晶。
  • 特徴: フェノール性OHとカルボキシ基を持つ。
  • 用途: アスピリン(アセチルサリチル酸)の原料、外用薬(角質軟化剤)。

アスピリン (アセチルサリチル酸, o-CH₃COO-C₆H₄-COOH)

  • 性状: 白色結晶。
  • 用途: 解熱鎮痛薬。

8. カルボン酸の検出・確認方法

8.1 酸性の確認

  • リトマス紙: 酸性で赤色に変色。
  • pH指示薬: 酸性を示す。

8.2 炭酸水素ナトリウム試験

  • 炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)水溶液にカルボン酸を加えると、CO₂の気泡を発生する。
  • 反応式: (23) R-COOH + NaHCO₃ → R-COONa + CO₂↑ + H₂O
  • この反応はフェノール(炭酸より弱い酸)との区別に重要(フェノールはNaHCO₃と反応しない)。

8.3 エステルの生成(香りによる確認)

  • カルボン酸とアルコールを濃硫酸と共に加熱すると、エステルが生成する。低級エステルは果実様の香りを持つため、確認に利用できる。
  • 例: 酢酸 + エタノール → 酢酸エチル(果実様の香り)

8.4 赤外吸収スペクトル(IR)

  • C=O伸縮振動: 1710-1720 cm⁻¹に強い吸収(二量体で低波数シフト)。
  • O-H伸縮振動: 2500-3500 cm⁻¹に非常に幅広い吸収(水素結合のため)。
  • C-O伸縮振動: 1200-1300 cm⁻¹。

8.5 核磁気共鳴スペクトル(NMR)

  • ¹H-NMR: カルボキシ基のプロトンは10-13 ppmに特徴的なブロードなシグナル。
  • ¹³C-NMR: カルボニル炭素は170-185 ppmにシグナル。

8.6 誘導体の作成

  • p-ブロモフェナシルエステルなどの誘導体を作り、融点測定で同定する方法もある。

9. カルボン酸の応用・工業的利用

9.1 食品

  • 酢酸: 食酢(調味料、保存料)。
  • クエン酸: 清涼飲料水の酸味料、食品添加物。
  • 乳酸: 食品添加物(酸味料、保存料)。
  • 酒石酸: ベーキングパウダーの成分。
  • ソルビン酸: 保存料(ソルビン酸カリウムとして)。

9.2 高分子原料

  • アジピン酸: ナイロン(6,6-ナイロン)の原料。
  • テレフタル酸: ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート, PET)の原料。
  • アクリル酸・メタクリル酸: アクリル樹脂の原料。
  • 乳酸: 生分解性プラスチック(ポリ乳酸)の原料。

9.3 医薬品

  • アスピリン(アセチルサリチル酸): 解熱鎮痛薬。
  • サリチル酸: 外用薬(角質軟化剤)。
  • 安息香酸: 医薬品原料、防腐剤。
  • プロピオン酸: 医薬品原料。

9.4 化粧品・石鹸

  • 高級脂肪酸(ステアリン酸など): 石鹸の原料(脂肪酸ナトリウム)。
  • グリコール酸: 化粧品(ピーリング剤)。

9.5 工業薬品

  • ギ酸: 染色、皮革工業、殺菌剤。
  • シュウ酸: さび取り、漂白剤。
  • フタル酸: 可塑剤(フタル酸エステル)の原料。

10. カルボン酸とフェノールの酸性度比較

性質 カルボン酸 フェノール
pKa 約4-5 約10
NaHCO₃との反応 CO₂を発生する 反応しない(CO₂発生なし)
NaOHとの反応 反応する 反応する
Na₂CO₃との反応 CO₂を発生する 反応するがCO₂発生なし
FeCl₃呈色反応 通常呈色しない 呈色する(紫〜赤紫)

11. カルボン酸誘導体

11.1 主な誘導体と反応性の順序

  • 反応性(求核置換反応のされやすさ):
    酸塩化物 > 酸無水物 > エステル > アミド

11.2 各誘導体の特徴

  • 酸塩化物(R-COCl): 反応性が高く、加水分解されやすい。アミドやエステル合成に用いられる。
  • 酸無水物((R-CO)₂O): 酸塩化物ほどではないが反応性が高い。無水酢酸が代表的。
  • エステル(R-COOR'): 果実様の香りを持つものがある。加水分解でカルボン酸とアルコールに戻る。
  • アミド(R-CONH₂): 比較的安定。加水分解でカルボン酸とアンモニアに戻る。

12. カルボン酸の毒性と取り扱い

12.1 毒性

  • ギ酸: 強い刺激性、腐食性。皮膚に付着すると水疱を生じる。
  • 酢酸: 濃厚なものは皮膚に対して腐食性。蒸気の吸入は気道を刺激する。
  • シュウ酸: 有毒。経口摂取で腎障害、吐血を引き起こす。
  • 安息香酸: 比較的低毒性だが、大量摂取は健康に影響。

12.2 安全な取り扱い

  • 濃厚なカルボン酸は皮膚に対して腐食性があるため、保護手袋・保護メガネを着用。
  • 蒸気の吸入を避けるため、ドラフト内で使用。
  • 皮膚に付着した場合は多量の水で洗い流す。
  • シュウ酸など毒性の強いものは特に注意。

13. 重要反応のまとめ(暗記用)

  • カルボン酸の生成(第一級アルコールの酸化): (24) R-CH₂OH + 2[O] → R-COOH + H₂O
  • カルボン酸の生成(アルデヒドの酸化): (25) R-CHO + [O] → R-COOH
  • カルボン酸の生成(グリニャール反応): (26) RMgBr + CO₂ → R-COOH
  • カルボン酸とNaHCO₃: (27) R-COOH + NaHCO₃ → R-COONa + CO₂↑ + H₂O
  • エステル化反応: (28) R-COOH + R'OH ⇄ R-COOR' + H₂O
  • 酸塩化物の生成: (29) R-COOH + SOCl₂ → R-COCl + SO₂↑ + HCl↑
  • アミドの生成: (30) R-COOH + NH₃ → R-COONH₄ → (加熱) R-CONH₂ + H₂O
  • カルボン酸の還元: (31) R-COOH + 4[H] → R-CH₂OH + H₂O
  • ギ酸の脱水: (32) HCOOH → CO↑ + H₂O
  • シュウ酸の脱炭酸: (33) (COOH)₂ → HCOOH + CO₂↑

14. 確認問題

  1. 酢酸とエタノールから酢酸エチルを合成する反応式を示し、反応条件を述べよ。
  2. カルボン酸とフェノールの酸性度の違いを、炭酸水素ナトリウムを用いて区別する方法を説明せよ。
  3. ギ酸が銀鏡反応を示す理由を説明せよ。
  4. トルエンから安息香酸を合成する反応式を示せ。
  5. シュウ酸の性質と用途を2つずつ挙げよ。
  6. クエン酸の構造式と特徴的な用途を述べよ。
  7. カルボン酸のIRスペクトルの特徴を2つ挙げよ。
  8. 酢酸に塩化チオニルを作用させたときの反応式を示せ。
  9. サリチル酸からアスピリンを合成する反応式を示せ。
  10. 高級脂肪酸(ステアリン酸など)の石鹸としての利用を化学的に説明せよ。